機動戦士ガンダム第19話「ランバ・ラル特攻!」ではアムロとランバ・ラルが搭乗するガンダムVSグフという単純な戦いではなく、さまざまな立場として人格や人間関係からも大いなる戦いとして描いているため、計算された緻密な部分から名シーンとなっている。
特にアムロは今後の人間成長として課題となることや、ホワイトベースクルーやランバ・ラルとの間に深い確執を感じさせることから、壁や問題点が浮き彫りになるのですが、
この話で富野由悠季は視聴者に何を言いたかったのか?今回も大人の目線でいろいろと
分析していくことにしましょう。
目次
・これが敵?偶然出会ったランバ・ラルとハモンから感じた大人の世界。
・ガンダムVSグフ!ランバ・ラルのセリフから読む本当の勝者とは。
・ガンダムかアムロか?ホワイトベースクルーが求めていた本質とは。
これが敵?偶然出会ったランバ・ラルとハモンから感じた大人の世界
機動戦士ガンダムの世界ではリアルな描写が基本となっていることから、戦争だけで
なく人間としての生活でも置かれている立場により厳しい場面を見かけるのですが、
「戦場をさまようアムロに、後悔に似た思いが走るのだった」
という永井一郎さんの冒頭ナレーションで逃亡中のアムロの不安げな顔を描写しながら、
炎天下の中、食料や水を求めてさまよう部分をリアルに表現している。
そんな中、ソドムの町でようやく水と固いパンという粗末な食事にありつけた頃、
「オヤジ、休ませてもらうぞ、13人だ」
とクランプ以下、ランバ・ラル隊のジオン兵が店にやってきては、ランバ・ラルの内縁の妻、ハモンが光を背にして妖艶な笑みを浮かべアムロを見つめ、その後に貫禄を見せながらランバ・ラルが入ってくるので、流石のアムロも警戒しながらも魅入ってしまう。
ランバ・ラルからすれば戦闘前のちょっとした補給のような感覚であり、部下である
サグレ、マイルの2人を見張り、妻のハモンにも気を利かせながら上機嫌な感じで、
「みんな、座れ座れ。何を食ってもいいぞ。作戦前の最後の食事だ」
と仲間思いの部分を見せながら、中立地帯であることを心配した店主が戦争に対し意見を
言ったことから怪訝な感じで対応するのですが、ハモンが注文するときに放ったセリフ、
「何もないのね。できる物を14人分ね」
とアムロの分まで注文してしまうことから、ランバ・ラルも思わず、
「フフ、あんな子が欲しいのか?」
と笑みを浮かべてハモンに釘を刺すように答えることから反射的にハモンも、
「フ、そうね」
と同じように意味深な笑みで返すので、当時子供だった筆者としては「これが大人の世界か?」とあまりの余裕さから若干恐怖さえ感じたのですが、これもまたハモンが持っている
優れた洞察力であり、これまで見せて来た「人を見抜く」部分に長けていることから、
ラルが愚直にまで実直になれたことを物語っており、暗黙の了解のように笑みを交し合った
ことから、「こいつらは只者ではない!」という部分を描写しているのだと思える。
アムロとしては食事を恵んで貰う理由がないので、ハッキリと断るのですが、
「君の事をあたしが気に入ったからなんだけど、理由にならないかしら?」
とまた意味深な笑顔で言うので、ラルだけでなく周りのジオン兵にもからかわれるのですが、アムロがその後にもハッキリと断るためにラルもその行動が気に入ってしまい、
「気に入ったぞ、小僧。それだけはっきりものを言うとはな」
「ハモンだけの奢りじゃない、わしからも奢らせてもらうよ。
なら食っていけるだろう?ん?」
と上機嫌で肩を叩き迎え入れようとするので敵なのにアムロも困惑してしまう。
しかしアムロを探しに来ていたフラウ・ボゥが見張りの兵に見つかったことで
地球連邦軍の関係者であることを察知され、囲まれている状況であったために、
「いい目をしているな、フフフ、それにしてもいい度胸だ。
ますます気に入ったよ。ア、アムロとかいったな?」
とマントの下でけん制で持っていた拳銃を見抜かれ絶体絶命の危機に見舞われるののですが、
ラル
「しかし、戦場で会ったらこうはいかんぞ。頑張れよ、アムロ君」アムロ
「は、はい、ラ、ランバ・ラルさんも、ハモンさんも、
ありがとうございました」
とフラウ・ボゥの手を無理やり取り逃げ帰るようにその場を去っていく。
こういった場面を1つ取っても大人として戦争でどう対応すべきなのか?プロとしても
しっかりと描写しているので表向きの優しい顔に騙されてはいけないのですが、
利用されたとも知らずにフラウ・ボゥと別れてから砂漠でぼんやり考えるアムロは、
「あの人達が僕らの戦ってる相手なんだろうか?」
と想像していた敵とは違い人としての温かみや好意的な態度で接されたのか?
自分の求める安らぎや温かみに騙され表面上しか見ていないことから、その人が行動する意味をしっかりと考えないと戦争では生き残れないことを深い意味として描写している。
そのため連邦軍の兵士かもしれないと理解しているのにホバギーに乗って去るアムロとフラウ・ボゥをそのまま逃がすわけもなく、ラルは部下のゼイガンにバイクで追跡させ、
ホワイトベースの場所を突き止められることで大人というものは綺麗ごとだけでは生きて
いけないことをホワイトベースに向かうグフとザクを見て思い知らされるのですが、
それ以上にアムロはランバ・ラルとの直接対決で大人としてだけでなく、人間として
大いなる壁を感じ、成長への分岐点となってこの後も影響することになるのです。
ガンダムVSグフ!ランバ・ラルのセリフから読む本当の勝者とは
機動戦士ガンダム第19話「ランバ・ラル特攻!」ではガンダムを欠いた状態でランバ・ラルのグフとステッチ搭乗のザクⅡJ型でホワイトベースを奇襲するのですが、ラルが囮となって
ガンタンクをひきつけ足に装備した3連ミサイル・ポッドでキャタピラを破壊。
これによりガンタンクが動けなくなってしまうことから、砲撃手のハヤトが操縦手のリュウに上半身を強制排除で砲台になるという無茶な発想で、アムロのガンダムをリュウのコア・ファイターで呼びにいくよう展開されるのですが、この描写もまた第21話にある、
「激闘は憎しみ深く」のリュウ特攻につながる伏線となっているので見逃せない部分。
こういった描写1つ取っても、ハヤトの真面目さからくる砲台になるという無謀な
アイデアや、そういった熱い感情に弱いリュウが期待に答えてしまう部分。
カイの戦争に対する冷めた目線が丁寧に描かれていることから、
「冗談じゃないよ。グフとザクはどこに行ったんだ?
ハヤト、お前そこから出た方が死なないですむぞ」
とそれぞれの戦争がここでも丁寧に描かれているので今見ても色あせない状態である。
またランバ・ラル隊もしっかりと作戦を考えており、ガンタンクをザクにやらせその後にホワイトベースを強襲!それに気づいたアムロのガンダムはハモンが乗るギャロップに足止めされてしまうので、そのことを逆算して読み取ったアムロはジレンマのように、
「・・・ええい、ここでビームライフルを使ったらグフと戦う時」
とビームサーベルでギャロップを対応しながら、アムロを探しに来たリュウがホワイトベースを防衛するように知らせに来たので、そのことにアムロは思わず歓喜してしまう。
またこの話からミライの思い切った行動が目立ち、ホワイトベースの操作で後ろに回っていたステッチのザクをエンジン噴射で破壊。それに逆上したラルのグフが上に乗りエンジン部分を破壊しようとすると、厳しい顔から何かを覚悟した顔つきから、
「ブライト、グフを振り落とします」
で背面飛行に入りカイ搭乗のガンキャノンとの一騎打ちにまで持ち込ませる。
こんな感じで展開はどんどんと変化するので、カイも身を守るので精一杯であり突進してきたグフに対ししゃがんで対応したものの、右側のキャノン砲を吹っ飛ばされ電磁ムチ、ヒートロットでやられそうになったところへ主役らしくビームライフルで狙撃!
ここからが本当の戦いになるのですが、正確な射撃のガンダムに対しコンピュータで
予想してしまうので、人の感覚でしか読めない格闘戦にもつれ込んでしまう。
本来ならシャアとの戦闘のようにモビルスーツ同士の対決になるのですが、ここでは以前出会っている布石があるのか?お互いに持っている武器でコックピット付近を傷付けられ、顔が直接見える状態になる。
こういった描写がされている理由も、グフの腕を切り落として接近戦になった際、
操縦席にはランバ・ラルという人格を持った戦士との戦いであることを示しているため、店で偶然出会った印象から今までの展開を視聴者に理解させるための描写に過ぎない。
そのため時間が止まったような描写から、
ラル
「お、お前は?さっきの坊やか。ア、アムロとかいったな」
アムロ
「そうか、僕らを助けたのはホワイトベースを見つける為だったのか」
ラル
「まさかな。時代が変わった様だな、坊やみたいなのがパイロットとはな」
とお互いに時代の変化や持っていた価値観を思い知らされると同時に改めて戦争は
人が行っていることを、「敵」という立場で再会させることで見事に演じている。
結果としてはガンダムの性能とアムロの戦闘スキルの向上でアムロが勝ったのですが、
それはあくまでも戦いの結果であり、実際には以下のことが尾を引いていることから、
本当の勝者などおらず、アムロに取って何が一番大事だったのか?身を持って知らされる
現実が待っているのです。
ガンダムかアムロか?ホワイトベースクルーが求めていた本質とは
機動戦士ガンダム第19話ではアムロが大人の世界を知ることとは別にホワイトベースクルーの心情が冒頭から終わりまでしっかりと散りばめられているので、この点を読んでいくほど、
ブライト以下!何を求めていたのか理解出来るようになるのですが、
冒頭でリュウがガンキャノンの修理のために溶接するシーンでも、
リュウ
「アムロの事をガンダムと別に考えるのか?」
ブライト
「・・・まあ、ガンダムが戻ってからの話になるがな、アムロの事は」
とあるように自分達はガンダムを求めているのか?アムロを求めているのか?
決め兼ねない状態で錯乱しているブライトの描写を前振りとして演出している。
ブライトとしては第17話でアムロがガンダムを持って脱走したため、アムロを降ろし別パイロットにすることを決めていたのですが、アムロの命令違反や自分の言動で思い詰めて脱走したこともあるためか?リュウを含めクルー全員の意見を聞いているところが、
士官としても人間としても詰めの甘さを感じさせるので、リュウは冷静な態度で、
「ならやめとけ。その時のアムロ次第だからな」
と自分本位な押し付けから脱走になっていることを悟ってか、アムロの反省次第で対応という中立な立場。カイは相変わらず茶化しアムロを自分勝手と蔑み、ミライは心配するフラウ・ボゥを諭しながらお母さん的存在で冷静に判断すると十人十色の状態である。
そのためホワイトベースをランバ・ラル隊から防衛するときでも、アムロを呼びに
リュウがコア・ファイターで足止めされていたギャロップに対し応戦するので、
「リュウさん、迎えに来てくれたんだ」
と思わず歓喜してしまうのですが、現実にはグフとの戦闘後にブライトが放った、
「カイ、リュウ、後退しろ、ハヤトのガンタンクの収容を第一に。
ここから離脱する。損害があまりにも大きすぎた
アムロ、回線を開け。各機の収容作業を手伝ってもらう」
という場面からチームワークを乱した罪として独房入りになってしまう。
結果としてはアムロのガンダムにより今回も助けられたホワイトベースであり、
「一方的すぎます、僕だって好きでホワイトベースを
降りたんじゃない。僕の言い分だって聞いてくれても」
とアムロが話し合いを求めるのですが、現実にはこれまでの自分勝手な対応によりホワイトベースを窮地に追いやる場面や今回の戦いでもランバ・ラルの裏を読みきれなかったことで危機的状況に追い込まれたため、堪忍袋の尾が切れて反省させられることになる。
またリュウがアムロに対し、
「なぜ俺がお前を呼びに行ったと思う?」
という問いかけに対し自分がいなければ戦えないといううぬぼれがあったことから、
「・・・うぬぼれるなよ。ガンダムさえ戻ってくればと思ったからだよ」
とあえて厳しく突き離すことで自分がどれだけ迷惑なことをして来たのか?
この点を理解させることでアムロへの成長を願った富野由悠季氏の思いが伝わってくる。
ここでアムロが絶望した際にラルが放った捨てセリフ、
「うぬぼれるなよ、お前の力で勝ったのではない。
ガンダムの性能のおかげで勝ったのだ」
という言葉は実際のシーンとこのシーンと重なるような意味で捉えられてしまうのですが、現実には全く意味が違っており前者は単なる性能として、後者は自分という個ではなくガンダムさえあればアムロがいなくても生き残れるというメッセージであることから、
仲間に信頼され威風堂々とアムロに食事を奢ろうとしたラルを回想しては、
「・・・ぼ、僕は、僕はあの人に勝ちたい」
と人間の成長を主観的に見せることで超えなければならない壁として演出している。
こういった描写は富野方式なのか?今後も同じように出てくることから注目したい
部分なのですが、これもまた挫折として描くことで自分に何が足りなかったのか?
この点を具体的な演出として子供達に知って欲しかったのでは無いでしょうか?