機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)編は前作映画の「Ⅱ」と同じく第31話から
最終話である第43話「脱出」までを再編集したものであるのですが、TVアニメを見て
いること前提であった「Ⅱ」の反省点を考慮してか?100%映画向けに作成されており、
当時のアニメ映画では珍しく映画独自のオリジナルテーマ曲や挿入歌がオリコンチャートの
上位にランキングされるなど、異質な作風となっていることが意外と知られていない。
また映画向けに作成したとは言え、「Ⅱ」の哀・戦士とと同じようにめぐりあい宇宙「Ⅲ」
も、第13独立艦隊としてのシャアとの激戦!、ジオン軍の本拠地であるサイド3に最短で
向かうソロモン攻略戦、テキサスの死闘、シャアとセイラの兄妹の秘密、コンスコン強襲、
ニュータイプの同士の覚醒と戦い、決戦ア・バオア・クー、脱出と結構忙しいのでこれを
どう編集し、現在に残る人気作品となったのか?この点を中心に分析したいと思います。
目次
・富野由悠季は何故めぐりあい宇宙に「リアル」を徹底追及したのか?
・めぐりあい宇宙が今でも名作と言われているのは何故?
・ニュータイプの意味!ガンダム最強となった真の理由とは?
・ラストの演出は涙無くして語れない?富野流演出とは。
富野由悠季は何故めぐりあい宇宙に「リアル」を徹底追及したのか?
前回でもお話したように機動戦士ガンダムではアニメは子供が見ることが常識!と言われて
いた時代のため、リアルすぎる話に視聴者が付いていかず、視聴率改善のためにさまざまな
敵モビルスーツを打診!富野氏自らラフを書き、それを形にガンダムにぶつけていますが、
機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)編ではそういった思考より戦争として
リアルに近い設定を重視していることが、TV版と比べるほど形として現れている。
このひとつが第13独立艦隊としておとり専門となったホワイトベース隊の兵器の数々。
当時おもちゃ要素が強く、合体、変形することでパワーアップする「Gアーマー」の設定
を見直し、スターウォーズに出てくる戦闘機のような形で小型戦闘機コア・ファイターに
ブースターをつける「コア・ブースター」を採用。
ハヤトが搭乗していた戦車型のMS(モビルスーツ)ガンタンクは実用的でないということ
でカイが搭乗していた中距離型支援MSガンキャノンを導入し、108号機をカイの機体
109号機をハヤトの機体。ホワイトベースの副砲が縦になるなどリアルさを考慮している。
このことで作画からほぼ100%!書き直しで作成されているのですが、この理由も富野氏
が将来、ガンダムを実写映画化を考えていたらしく、アニメよりも実写として人間ドラマを
描きたいため、版権まで買って映画化を考えていたようであり、実際にはTVアニメ版で、
倒れた作画監督の安彦良和氏のリベンジマッチとして機会を与えたことで新作に近い構成
となっていることが単なるTV版の再編集とは言えない本当の理由なのかもしれません。
めぐりあい宇宙が今でも名作と言われているのは何故?
今の時代でも機動戦士ガンダムが大好き♪と言うファンの大半は「Ⅲ」であるめぐりあい
宇宙を名作と上げることが多いのですが、これもまた緊迫したシーンや人間ドラマの見せ方
がうまいため名作になっているのだと思える。
例えばシャアの部下であるドレン少尉がシャアを待つまでホワイトベース隊をひきつける
シーンでもTV版では無い臨場感のある音楽で緊迫さを演出したり、呼吸音や一瞬無音に
なるなどで緊張感や恐怖を演出することで、魅せる場面を演出している。
そのためコンスコン襲撃で12機のリックドムを3分で撃破するシーンでもTV版と映画版
では圧倒的に緊迫感が違い、その場で戦闘を見ている臨場感に引き込まれるため、この点が
コアなファンをひきつける要因となる。
また富野氏や安彦氏のコンテ自体、映画を意識して作製していることからそこに臨場感の
ある音楽をかけることで、TV版には無かったリアルさを演出しているため、同じシーン
でもめぐりあい宇宙のほうがいいよねえ~というファンも少なくない。
TV版に忠実ながらもこういった演出の差が今でも名作だ!と言われる所以であり
以後のアニメ映画に大きな影響を与えた要因になったのでは無いでしょうか?
ニュータイプの意味!ガンダム最強となった真の理由とは?
めぐりあい宇宙については実際に見ていただいたほうが数倍の興奮度と感動が待っている
ためあまりネタバレしないように記載していますが、それでもわからない部分はあります
ので、その中でも一番の疑問点であるニュータイプについて語ろうと思う。
本編におけるニュータイプは当時・超能力ブームだったユリ・ゲラー氏の人気に乗ろうと
超能力的なもので相手の先の先を見通す存在として考えていたのですが、ガンダムを放送
しているTV局自体がオカルト否定派なので、最終的には「人類の革新」とは何か?
そんな感覚の抽象的な部分をテーマとしているため、この時期では意外と曖昧な感覚で
処理されていることが多く見られている。
この理由も富野氏が現実味を持たせた設定で物語を作成しては哲学的思想を盛り込みたいと
考えていたため、このようになったのですが、現実にはそれではわかりにくい!ということ
で「普通の人よりも未来を見通せる人」という感性でわかりやすく構成されている。
そのため演出でも閃光が走るようなものと効果音でニュータイプの力を示し、普通の人では
反応不可能なものとして革新を描いているのですが、ガンダム最強となった真の理由もそう
することによって視聴者がのめり込み、ガンダムが売れることを狙ったためであろう。
本来ならば1人のニュータイプだけで戦争が終わるほど甘くは無いのですが、ニュータイプ
が最強!人の革新を与えるものという印象を強く訴えるならば、主人公メカであるガンダム
にもう一歩訴えるものが無ければ、劇的なエンディングにまではたとりつけなかった。
それが製作者側としては本音であり当時としては「表現の限界」だったのかもしれません。
ラストの演出は涙無くして語れない?富野流演出とは
機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)では当時のアニメでは珍しく、テーマ曲に
「めぐりあい」挿入歌に「ビギニング」を劇的なシーンほど使用しています。
これは「Ⅱ」の哀・戦士でもおこなっていた手法ですが、「Ⅲ」の場合は井荻麟名義で
富野氏自身が作詞しており、シャアが搭乗するジオングとアムロが搭乗するガンダムとの
最後の戦いやホワイトベースが最終要塞ア・バオア・クーへ突入するシーン。
アムロがコア・ファイターで脱出するなど、要所で感情移入しやすいよう使われている
ことが、30年経過した今でもこの手法がアニメ作品全体に影響を及ぼしている。
これもまた井上大輔さんの歌唱力があってこそなのですが「めぐりあい」の最初の部分が
流れ出すときは、身体が震えるほど歓喜に震え、コア・ファイターで脱出してきたアムロ
の無事をさらに強調するので、偉才な演出だ!と今でもそう感じているのですが、
「Ⅲ」の大半が富野氏が本来!作成したかった「映画」という観点で計算された上で
感動や歓喜に震えるよう構成されているため機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)
は今でも名作だ!と言われるのかもしれません。